101391 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第十三話~(番外?Dead Data@第三話)

…“白いコテ”。結構手間取らせられたけど、もういいや、飽きた。

そんな訳で僕はさっさと引き上げた訳だけど…。やっぱまずかったかな。

僕らはアイツの命令通り動く駒の扱い。勝手な行動を取れば後々面倒なのは明らかだ。

でもさー、数分で片付かなかったら面倒じゃん、と誰ともなく僕は愚痴る。当然返答はない。

…ふぅ、と小さく息を洩らしながらも、僕、死忘は堂々と帰る。

ま、何かあったらそん時はそん時でいいじゃんね?って事で。








街の一角、一際大きなビル。

そこは、敢えて破壊せず残し、中を改造して僕らが普段集まる場所として使われてる。言わば、僕らのアジトだ。

と言っても僕らの部屋とか気の利いたものはないし、

元々置いてあった事務的な机や椅子、道具たちが転がってる程度の殺風景なビル。

ここに居ても気が滅入るばかりだけども、どうせ行く場所行く場所ほぼ破壊して来てる。

だから仕方なく、僕はここへ帰ってくるんだ。


「おや、今帰りですか?死忘さん。今日は少し遅かった様ですが…何か面白い事でも?」


…鬱陶しいなぁ。

僕は心底面倒に思いつつもとりあえずの対応をする。


「別にー。大した事じゃないし、キミにそれを話す義務もないよ」「おやおや…。ツレナイですねぇ…?」

「一応、元々は対になってるコテじゃないですか。」

「…チッ」


小さく舌打ちしながら僕はどこからともなく現れた相手…“かてないさかな”を睨みつける。

左右で違う、猫・兎の耳を持ち、困った様な笑顔を絶やさないコテ。

まるで道化の様な左目の☆がその困った様な顔の表情をより一層、読み取りづらくする。

…実際、読み取りづらいんだよね…。こいつは何を考えてるかよく分からないから僕は正直苦手。

僕の舌打ちに対して…多分聞こえてるだろうに楽しそうに小さくクックッと笑っている。

…こいつには基本何を言っても無駄だから会話自体面倒臭いんだよね…。

そんで、僕にはその辺の記憶は今はもう無いんだけども…僕と彼は元々対で生まれたコテだった、らしい。

コレと対ってのも何だかなぁ。多分、気狂いなアイツを抑える役とかで僕が居るんだろうな、と思ってる。

実際はコイツに尋ねるのも癪だから聞いてないし、知らないけどさ。


「ま、付いていけば分かる事でしょうし、ゆっくり後で…ですね?」

「付いてくんな。」

「まーまー。場合によっては私も報告が必要な事がありますから…
       仕方なく、ですよ?別に好きでついていく訳ではないです。…アナタ如きに。」


ッッ!!

一々一言余計なんだよコイツは!!

思わず拳を握り締め、一発ぶち込んでやろうかと構えた。

けど、その間に割って入る様に一人入って来た為にそれは中止された。


「おねーちゃん!おかえり!」

「あ?…あぁ。ただいま。」


割って入ったのは小柄な少年。人型寄りのコテ、“閃光騨”

頭部の紅い斜め線が特徴的だがその他は無個性。そんな彼を見て、ふと僕はさっきのコテを思い出す。

…似た様な奴なのかもな。

閃光騨…親しみを込めて大抵“せんちゃん”と呼ばれてる彼は、喋り口調やその声質は非常に無邪気。

だけど、そんな声とは裏腹に表情はいつも感情が読めない。無表情に近い。

だからこの子も実は苦手だったりするんだけど…。ま、敵にならないうちはどうでもいいや。


「せんちゃんも外行ってたの?」

「ううん、ぼくはおるすばんだよ。ひまだったー」「私は行ってましたけどね。」


当たり障りのない会話で追い払おうと思ってたら、ずいっ、とかてないさかなが話に入り込んできた。

本当コイツ空気読めよ…。いや、空気読めたらそもそももうちと話通じるわな、仕方ないか。

ちなみに外に行く、ってのは僕らにとっての専門語。

“アイツ”の命令でここら一体の探索に行く事だ。

どこかに生き残りや侵略者が居ないとも限らないし、見つけたら即殺すって事で割と大事な役割だ。

気まぐれに数人が選出され、毎日駆り出されてるけどまぁ、大抵は暇を潰して帰るだけ。

なんせ、もうこの世界に他にコテが来る様な事なんて殆ど無いしね。


「…てかキミとは話してないんだけど。何入ってきてんの?」

「本当に?あらあら。やーっぱツレナイですねぇアナタ…」


わざとらしく言うと、かてないさかなはまた小さくクックッと笑いを漏らす。

その笑い声も割と癪に障るんだよなぁ…。てかホントもう何なんだコイツ。鬱陶しい…。


「おおっとぉ?珍しい。これだけ揃ってお目に掛かれるとはなぁ!」


やたら陽気な声が響き、ドッスドスと乱暴な足音が聞こえ、図体のでかいコテがやって来る。

…まーた面倒な奴が増えた。

2m級のロボに乗り込んだジサクジエン型のコテ、“糊塗霧隙羽”の登場だ。

コイツもまた、糊塗霧と隙羽で二人で一つの名前かつ一人のコテとして存在してる。

“糊塗霧”って言うのがロボット。隙羽がロボットの頭部にはまり込んで居るジサクジエン型のコテで本体だ。

こいつも話通じないタイプだから関わり合いになりたくないんだけども…やたらと絡んでくるんだよな…。

割と面倒な奴ばっかりだよ、改めて見るとここの奴ら…。


「…お前が来るとホコリ立つから来ないで欲しいんだけど。」

「おぉ?これは失礼。いやー、しかし来ない訳にはいかんだろ?会話ができないじゃないか!!」


……ガッハッハッハッと豪快に笑う隙羽。コイツ、小さいくせに声がでけーし、態度もでけーし空気読めないし最悪だ。

もう放って置いて勝手にやる事やってこよう、と僕は歩き出す。

が、その後ろで会話しながら他3人が付いて来てる。こいつらは…!


「揃った事だし、我らが創造主の元へ顔出しに行こうじゃないか!このまま皆でな!」

「おぉ、それはいい考えですよ。大勢で行けば“彼”もきっと、楽しんでくれる」

「わー!たのしい?あそぶの!?」


僕は一言も一緒に行こうなんて言ってないしそのつもりもない。

けど、最早決定事項だ、と言わんばかりに三人は僕の後ろを付いてくる。

これだからこいつらは本当…!!

って言うかこいつらお互いに怪しいとか思わねーの?バカだから思わないんだろうなぁ!平和な脳味噌してやがる!

イライラしながらも僕はビルの階段をドスドスと登っていく。

どうせ、言っても、無駄、だからね!!!












「失礼します、我らが創造主。報告へ参りましたよ。」


いつの間にやら先頭を切っているかてないさかながギィ、と扉を開ける。

こうなるともう今さら逃げ様もないし、観念して入っていくしか無い。

…ここに来るのも割と気が滅入るんだよなぁ…。なんせ、僕らの元になったコテ…。

“半分は人間であるコテ”の、“ロドク”が居る部屋なのだから。

ね?なんせ、って言われても理由になってない?いや、見てれば分かるよ…。

扉を開いた先の部屋は、これまでよりも更に殺風景で何もない。

また、部屋中紫のインクで殴り書きされてる様がもう、病んでる感じを演出しました―って感じで見てらんない。

そんな、部屋の中央で体育座りで座ったまま何処を見てるとも分からぬ目付きでブツブツ呟き続けている白いコテ。

猫型に見えるがあれは角。3本の角を有し、その中央の角には☆の飾りが生えている。

そんなふざけた風貌とはまるで反対に暗い雰囲気を醸し出し、こちらに背を向けたまま呟き続けている…。

そう、あれこそが僕らの元となったコテであり、この街を支配し、僕らを動かしてる主人格。ロドクだ。

ちなみに、呟きは小さくて聞こえないけども大抵…


「死ね死ね死ね死ね皆死ね全て滅びろ息絶えろ死ね…」


とかこんな感じだ。だから近寄りたくない。



「ロドクさーん?聞こえてますー?私達が来ましたよー?ハッロー?」


やっぱ近寄りたくね―なーと思いながら尻込みしてると

わざとらしく胡散臭い喋り口調でかてないさかながロドクの元へ近づいて行く。

あーあー、そんな事したらまたアレが…

なーんて、思っていた瞬間、バンッ!!と強くロドクが床を平手打ちした。 あーほらみろ。

と、同時に何もない部屋の床からゴゴゴゴ、とガラスの壁がせり上がってくる。

慣れた風にかてないさかなはサッとそのガラスの壁を避ける為後ろへ飛ぶ。

…このガラスは攻撃の為のモノじゃないけど、挟まれたらまぁ、酷いことになるしね。

以前に“ヤキムシ”が一度挟まれてプチッって飛び散る事になったし。

ガラスの壁が全て出終わったのか、シン、と静まり返る部屋。せり上がったガラスは全てロドクの四方を囲む様に出て来てるから

ロドクはそれこそ、僕らよりも尚この場の静寂を感じてる事だろう。

囲んだ事で判ったと思うけど、これはロドクが少しでも危険を感じると使う“防御陣”まぁ所謂バリアだ。

大抵の攻撃は跳ね返す無敵の鉄壁。破壊するにはロドクが自分で解除するか、パスワードを打ち込むしか無い。

で、そのパスワードはそれこそロドク自身がこの世界からその情報を消してしまった。

要するにロドクの意思以外では絶対に破れない鉄壁の防御なんだ。…乱用されるからそうは思えないけどさ。


「ロドクさーん。私ですってー。」


表情も崩さず、相変わらずおどけた口調でかてないさかなが再び声を掛ける。

ロドクは相変わらず、体育座りのままでチラッと一瞬振り向くと、すぐに向き直ってしまった。

けど、それと同時にガラスの壁は全て引っ込んでいった。


「…なんだ、お前らか。
    …俺の部屋に入る時はノックを3回と言った筈だな。…それが無かった。どういう事か説明しろ。
    その結果、俺は侵入者が現れたと思い、防壁を出すに至った…。お前のせいだ、どうしてくれる。答えろ」

「すいません。で、とりあえず今日の報告に来たんですが。」


かてないさかなはアッサリと謝るとさっさとロドクが尋ねてきた事全て流した。

まぁ、毎回の流れだから当然そんな対応になるよね。

で、ロドクは気になる事があるとそっちに気を取られて自分が言った事を忘れるから…


「報告…。珍しいな。4人揃ってやって来るのは。何かあったか。」


はい、この通り。すいません一言で話は進むんだよね。

とは言え毎回ああやって被害妄想ぶちまけられるからまー、面倒臭いんだ。

アイツは基本、人間不信やら被害妄想やらそういう負の感情の塊みたいなもの。

そもそも、相変わらず背を向けたままなのも、ロドクは人の目を見て会話が出来ないからだし。

それが悪化して、顔すら見れないらしいけどね、今は。


「今日は皆さんの予定が揃ったモノで、仲良くここまでやって来た訳なんですよー」


よく言う。勝手に僕に他がくっついて来ただけの話のくせに。

…てか、他の時でもこうして数人が一緒に報告に来る事は珍しいみたいな口ぶりだな、ロドク。

もしかしてこいつら自体、普段はそう仲良くない?…じゃぁ何で僕の時だけ団結するんだ!うっぜぇ!!


「…それで、報告とやらは?」


焦れた様にロドクが急かす。

と言っても報告があるのは僕だけだろうし、さっさか済ませよう。

なんて思ってたら、何故かかてないさかながそのまま喋りだす。


「とりあえず、私の報告は私の管理下にある“ヤキムシ”の件ですね。」


…そういやコイツは報告があるって言ってた様な気もする…。まぁどうでもいいんだけどさ。


「言ってみろ。」


ロドクは特に気にする風もなく、続ける様促す。

アイツに何か問題とか起こりそうには思えないんだけどな…なんせ…。

“ヤキムシ”…ジサクジエン型のコテの変異種で虫の様な4本足のコテ。

その背に燃える炎は本人が自由に操れる炎で、それに依る攻撃を得意とする。

元々何を考えてるか分かんないコテだったけど、今や“siwasugutikakuni”と同じく、ここでは量産コテだ。

他のコテと違ってゴテゴテした飾りが少なく、自我もそう強くないコテだったから

大量にコピペされて、簡易な戦闘員として常に大群でどこかしらをウロチョロしてる。

そんな奴らを率いてるのが、一応かてないさかな。

と言っても世話の必要な動物でもないし…まぁ特に凄い訳ではない。


「まあ、相変わらず意味なく周りに火を飛ばしてますねぇ。たまに私にまで火を飛ばしてくるんですけども…」

「そこら辺もうちっとどうにかならないですかねぇ」


身振り手振りで自分への被害を特に強調しながら話すかてないさかな。

が、ロドクには全く届かなかったらしく、この後アッサリと斬り捨てられた。


「…“そういう風に作ったコテ”だからな。何も問題はない、つまりは順調って事だな。」


うんうん、と一人で頷き納得した風を見せるロドクを、

若干不満そうな顔でかてないさかなは見つめていたが、やがて、┐(´д`)┌ヤレヤレと諦めた風に下がった。

じゃぁ次は…なんて思ってたら今度は糊塗霧隙羽が前へ歩み出てきた。

おい、お前は聞いてねぇよ!


「次は私の報告だ!すまんが、こっちは増員が欲しい。」

「…増員?“siwasugutikakuni”ダメにしちまったか?」

「恥ずかしながら…。」


そう言うと糊塗霧隙羽のロボットの胸部が開いて、何かがドサリと転がり出てきた。

それは、先程から名前が上がっている“siwasugutikakuni”両腕の先に刃を持つヤキムシ同様量産されたコテだ。


「…どうして、こうなった?」


チラリと一瞬背後を確認し、ロドクが尋ねる。

その様子に悪びれる様子もなく、糊塗霧隙羽は答えた。


「瓦礫の掘削をさせてみたら刃が欠ける奴が出てしまってね…。
      あぁ、後は何かウザかったから殴りつけたら死んだよ」


そう言うと糊塗霧隙羽はsiwasugutikakuniを蹴り飛ばし、部屋の隅に追いやる。

まぁ、既に死んでるんだし当然だよね。邪魔にしかならないんだから。


「…物は大事に使えよ。頭悪く見えるぞ」

「ハハハ!すまんねぇ!ついつい、加減がわからなくてなぁ」


照れ隠しする様に笑いながら、糊塗霧隙羽が頭を下げて後ろへ下がる。

こいつら…馬鹿ばっかりだ。管理任されてる割には管理しきれてないじゃん。

本当、ろくでもない奴しかいないなぁ、ここには…。

溜息がまたも自然と漏れ出す。けど、別段どうしようとも思ってない。

じきにここを完全に自分たちだけの国として完成させられたら、その暁には、ここを出ていけるだろうし。

それまでの辛抱。それだけで自由にはなりそうだし、一々行動するのも面倒臭い。

ふと、先程蹴飛ばされたsiwasugutikakuniに目をやると、閃光騨がつついて遊んでいた。


「うっわぁー…。グッチャグチャ!すごー…。」

「…それは後々再利用するんだ、遊ぶな。」

「えー…。」


渋々ながら、閃光騨はロドクの言葉に従い、siwasugutikakuniの元から離れる。

そして、閃光騨が僕達の所へ戻って来た所でロドクが再び口を開いた。


「…せんちゃんは今日は一日ここに居た。後、報告があるとすればお前だけだな…死忘。」


…やっと僕か。

本当は一番にでも報告して帰りたかったのに他の奴と一緒に来たせいで大分グダついた。

これだからこいつらとは居たくないんだよ。ペースが乱されるんだから。

今日だけで一体何度溜息を吐いたのか。またも小さく息を漏らしながら、僕は報告に入る。

今日の報告は先程の一件のみ。一言で終わる。


「…見掛けないまっ白いコテが彷徨いてたから始末したよ。」


…まぁ本当は逃げられたんだけども。

虫も使ったし、どうせいずれ死ぬ事になる。細かい所は別にいいよね。もう面倒臭いし。

…なんて思ってたが、かてないさかながわざーとらしく首を傾げる。

…なんだコイツ。イラつくな相変わらず。


「…何。僕の報告に何か不満でもあるのキミ。」

「えー?いえいえ、別に不満なんて、言う程のものじゃぁないですよ?不満ではない。でもねぇ…」


そう言うと小さくククッと笑うかてないさかな。

一々含みのある言い方してくるんじゃねぇよ面倒臭いなぁ…!!


「じゃぁ何さ?嫉妬?ひっさびさだもんねぇ、この街で他のコテに会うなんてさ。
   いやー、楽しかったよ?コテ狩りはぁ。残念だったねー、参加できなくて!」


思いっ切り嫌味マシマシでかてないさかなに詰め寄る僕。

それをかてないさかなは大して気にも留めない、表情も変えないままにロドクの方を向き、声をかける。


「ねぇロドクさん、報告は正確に行わないと問題ですよねぇ?」


…え?

かてないさかなの問いに対してロドクは小さく頷く。


「…まぁそうだ。後に不都合が起きた時、その原因がどこか…探しづらくなる。」


その答えを聞いてかてないさかなはうんうん、と頷きながら今度は僕の方を向いた。

ま、まさかコイツ…。どっかで見てたのか?

そんな風に内心少し焦りだした僕を知ってか知らずか、

かてないさかなは急に、ビシッ、とこちらに向けて指を指してきた。


「な、何…。」

「“始末した”、じゃないですよね?正確には…“生死は分からないし逃がした”ですよね?」


…間違いないな、コイツどっかでわざと見てたんだ。

さっきのコイツがした報告も本当は大した意味なんか無い。

本当はこうやって僕の事を追い詰めて嫌がらせしようと付いて来てたんだ!!

性格悪ぅ!!!


「…生死不明、か。」


ロドクの呟きに一気に僕は血の気が引く。

慌てて僕は釈明に入る。ここでロドクの機嫌を損ねれば僕もヤキムシとかと同じ様に量産型に堕とされるかもしれない!

…確実に弁明しきらなければならない。

と言っても既に僕の中には確実であろう反論は用意されてる。それを叩き付けて、おしまいだ!


「だっ、大丈夫だよ!“虫”だって使ったし普通のコテならまず死んでるって!」

「普通なら、ねぇ。」


厭味ったらしい口調で、かてないさかなが僕の台詞に重ねる様に話す。

なんだよコイツ!!余計な事しやがって!!

なんて思っていたら更にかてないさかなはトドメとばかりにある事を尋ねてきた。


「まぁ、そうです。“普通なら”この“虫”
  …ネットの世界を生きる誰もが天敵とする“バグ・ウィルス”にやられれば死にます」

「けども、果たして…相手はその、“普通のコテ”だったのでしょうか?
      見た目だけ見ても…とても普通のコテだったとは思えないと、私は考えるのですが…?」


そう言われれば、そうだ。

僕らの身体能力は通常存在するコテよりもずっと高い。改造されているから。

だと言うのにあの、真っ白いコテは…。

その僕の攻撃を尽く回避していた。

更には、自身の身体能力、特殊能力も分からない状態だと言うのに僕を倒そうとすらした。

結果はあの程度だとは言え、どう考えても普通じゃない。

け、けどその辺の細かい所をバレ無ければ…


「死忘さんが戦った相手、白いだけじゃなくて顔も特徴も殆ど無い妙なコテだったんですよ
   それに、死忘さんの攻撃を不完全とは言え回避してました。とても普通とは思えませんよね、ね?ロドクさん」


うわわ!!ば、馬鹿!!余計な事を!!

コイツもしかして僕を葬り去ろうとしてるんじゃない!?やべぇ、なんて奴になんて所見られてるんだ僕は!!迂闊だった!!


「…なんだと?」


スクッ、とロドクが立ち上がる。

う、嘘でしょ!?これめっちゃ怒ってるんじゃないの!?普段殆ど立ち上がる事なんて無いし!!

相変わらず背を向けたままだから表情は分からないけど、ヤバイのは確かだ!


「…それに、のっぺらぼうのコテは以前にも始末した報告を聞いた筈だ…。どういうことだろうな…」


うわわわあ!!そそそそそう言えば前にもああ言うの僕が殺した…い、いや、でも!


「ちちち違うよ!以前殺った奴は、女性型っぽかったもん!!今回のは男性型だったし!別のやつだよ!!」


だ、ダメだぁー!本当の事なのにこの場に於いては明らかに言い訳にしか聞こえない!

完全に終わった、畜生かてないさかなぁ!お前一生恨んでやる、化けて出てやるからなぁ!!

ガタガタと震える僕を尻目に、ロドクはふぅ、と小さく溜息を漏らすと、ゆっくりといつもの体育座りに戻った。

意外そうな顔でかてないさかなはそんなロドクを見つめているが、僕はと言うと、未だ震えていた。


「…まぁ、もう一度見掛ける様な事になったらその時にまた、この問題について考える事とする。」

「そう…ですか。」


あからさまに残念そうな顔をするかてないさかなを睨みつける僕。

けど、ロドクの言葉にホッとして力が抜けて座り込んでしまって、すぐに殴りに行く事は出来なかった。悔しい!!

かなり肝が冷えた…。もうダメだと思った…。

ヤキムシとかみたいにされるか、“あの娘”みたいに消されると思って本当に怖かった。


「…他に何かあるか、お前ら。」


ロドクが、チラリとこちらを見ながら呟く。

これは、なんか意見とかあれば聞くぞ、なければ部屋から出て行けという意味だ。

久々に立ち上がって疲れでもしたんだろうか。とりあえず、僕は失敗の挽回とばかりに意見を出す事にする。


「もう、今回みたいに行き違い起こったりしないようにさぁ…
   …街丸ごと消しちゃわない?そしたら、何か出てきてもすぐ分かるしさ…」


「おぉ!それはいい!私も賛成だ!まどろっこしくチマチマチマチマ戦うよりは一気にこう、どかーん!!!となぁ!!」


賛成を求めた訳でも無いのにそう言って糊塗霧隙羽がテンションを上げる。

いや、コイツと意見が合うとかマジでありえないんだけど…。

と言っても今は味方が多い方がいいよね多分。


「ね、そうしようよ?そしたらすぐにでも…」


そう言いかけた時、意外な相手が僕の言葉を遮って来た。


「ダメだよ。」

「えっ…せ、せんちゃん…??」


全く想像もしてなかった閃光騨の反論に僕は動揺する。

と言っても、この子が何が出来るとも思わないんだけど…。


「“ほねぐみ”がないとー…“さいけん”、がタイヘンだよ?」


……普段、虫も殺さない様な顔してるし、頭カラッポでぽやーっとして見えるのに…。

何でこういう時にそう、綺麗に正論をぶつけてくるかな…。

そして、残念な事に、そんな閃光騨の意見はロドクも同意見らしく、頷いている。


「…せんちゃんの言う通りだ。そこら辺、我々の目的も含めきちんと伝わってない奴がまだ居たらしいがな…」


げっ、これすっごいマイナスイメージついたんじゃない!?

何とか弁解したい所だけど、ここで余計な事言ってもイメージ悪くなりそうだ。

仕方なく僕は黙ってロドクの話を聞く。


「俺の…俺達の最終的な目標は“他のコテが居ない、俺達の理想の街を作る”事だ。
    もし何者かが入り込もうとも抹殺し、その死体を晒し上げ、恐怖を糧に誰も近づかない街を目指している」

「かと言って俺達に建築の技術がある訳ではない…となると今ある建物、骨組みはどうしても必要となる。
     だから、街を全て消し去るのではなく他のコテを見掛けたら抹殺としているのだ。分かるか、死忘」


まるで、小さな子供相手に諭すかの様にロドクが尋ねてくる様子から察するに…もうコレ、糊塗霧隙羽と同等扱いだな…。

マジで泣けてくる…あの馬鹿と同じ扱いかぁ…。

チラッと、かてないさかなを見ると、それはそれは楽しそうにニコニコしている。

畜生!そんなに人の失敗が嬉しいかこのクソピエロ!


「石橋を叩いて渡る…転ばぬ先の杖、って奴ですよ、死忘さん。
  慎重さは大事って事です。急がば回れとも言いますよ。分かります?」

「うるさいよ」


コイツここぞとばかりに馬鹿にしてきやがってぇ…!!

それも上手く僕をイラッとさせる言葉を選んでやがる、腹立つぅー!!!

もう今日だけで僕ストレスで死にそうだよ。

イライラしている中だろうと自分じゃなければ無関係なのか、ロドクは続ける。


「…今後も周辺の探索を怠るな。報告は正確に行うように。
 …後は、防壁の完成を急げ。必要の無い建物はドンドン切り崩して材料にしろ。」

「後は特に無い。知らん。適当にやれ。以上だ。」


言いたい事は全部言ったのか、その後はロドクはぴたりと黙ってしまった。

こうなると何をしてももう何の反応も期待は出来ない。

皆それは解ってるので、ロドクが発した言葉の終了と共に、解散となった。









「ふぅ…。」


下水道を動き回ったせいであちこち汚れてしまった僕は、シャワールームに居た。

殆どの上下水道がもう殆ど機能していない中、このビルだけはしっかり整備されている。

他に住人も居ないと言うのに誰が整備してるのやら。いつか破綻しそうなものだけども…ま、平気でしょ。

いざとなったら虫で無理矢理改変する事も可能だろうしね。それにしても…。


「落ちない…し!!クソが!!」

持ってた石鹸を乱暴に叩き付けながら、イライラを吐き出すように叫ぶ。

僕の身体は黒色をしてるから汚れは正直目立ちにくい。とは言え、僕だって女の子だ。

汚れや臭いはどうしても気になる。さらに強く身体を磨きながら、また、石鹸を投げつけた。


「相変わらず、荒れてますねぇ、死忘さん?」


シャワールームの外から、またも不快な声が聞こえてくる。


「かてないさかな…!またキミか…」


全くコイツはどれだけ僕に付き纏うんだか…。

そもそも、今回特に荒れてるのはコイツのせいで危うく僕の命が脅かされかけたからだってのにどういう神経してるんだか!


「…荒れもするよ。キミがああも要らない事言って僕を危険な目に合わせたんだからね!!」


わしゃわしゃと乱暴に頭を洗い、シャワーで流すもまだ臭いは落ちてない。

それだけに、嫌味の一つや二つぶつけてやりたいもんで、途中から感情を表に出さずに喋れず、語気が荒くなった。


「すいませんね。必要な事だったので、仕方なく…ま、アレ以上余計な情報を出すつもりはもう御座いませんけどもね。」


…?

何だコイツ。なんかあの時態々僕の報告を訂正したのは、ただ僕を貶める為だった訳じゃない、とでも言いたげだけど…。

他に何の意味があるっていうんだか。言い訳してるだけか?

僕が訝しんで黙ったのを察してか、かてないさかなはシー…と口に手を当てる素振りをガラス越しで見せ…


「言わぬが花…という、諺があります。まぁ、つまりそういう事です。それでは」


とだけ言うと立ち去っていった。

???

相変わらず意味の分からない男だ。そもそも言わぬが仏じゃないのか?その諺。

結局何しに来たんだか分からないけど…相変わらずアイツとは関わり合いになりたくない、とだけは再認識した。

…って、待てよ。アイツ…


「…ってか!ここ一応女性用なんだけど!!?何普通に入ってんのアイツ!?」


女性型は今やそう多くはないが、シャワールームは一応男女で部屋自体が別れてる。

なのにアイツは平然と侵入して、妙な言い訳するだけしたら帰りやがった。

大慌てでタオルを身に纏い、慌ててシャワールームを出てみたが、とっくに奴は去った後。その姿を見つける事はなかった…。















「ゲボッフ!ゴブフッ!オブルァアア!ゲッホ!」


下水を一体どれほど泳いで来たのか…この汚れた水の中では全く分からない。

そもそも半分は流されていた様にも思うしわかる方が不自然だろう。

ただ、どうやら私はあの死神女から逃げ切る事が出来たらしい。虫も全て離れたようだし一応助かった。

…と、思いたいが今自分がどれだけ離れた場所に居るかも分からないし、安心は出来ない。

なるべく周りを確かめつつ、ゆっくりと下水から起き上がる。

…先程入ってきた場所よりも下水はかなり深く、下水道自体がかなり広い。

人が歩くスペースすら用意されてる程だ。そこへ何とか這い上がり、転がる。


「ハァ…ハァ…ハァ…。」


もう体中ボロボロだ。疲労もかなり溜まってクタクタ。最早ここから動けない位に疲れてる。

…いや、待て。おかしいぞ?

あちこち身体が痛むとは言え、出血はしていないし頭を打ったりはしていないはずだ。

それはボロボロになりながらもここまで逃げてきた事が証明してる。なのに…

手足の感覚が無い。それに、目が霞んできた。ピクリとも本当に動けない…これは…。


「まさ、か…あの紅いのに…毒、が…あ…。」


独り言を呟き切る事もままならず、私はそのままゆっくりと瞼を閉じた。

ゆっくりと、意識が遠くなっていく。

こんな所に倒れても、助けなんか来ないだろう。来るとしたら再びあの死神が来る程度。

このままは、絶対にまずい。だが、どうする事も出来そうにない…。

助かったと、思ったんだがな…。

そう、考えたのを最後に、私の意識はそこで途絶える事となった…。





つづく


© Rakuten Group, Inc.